便箋









 シンジと別れたあの日から私の心は何かを求め続けた。

 何もしていないときは涙が溢れてくる、

 何かしていてもシンジの事が頭をよぎり続ける毎日。



 時間がどうにかしてくれる。

 過去は過去、未来は未来。

 シンジとはまた会える、そう区切りをつけようとしていたのに、

 時間は何もしないどころか、シンジへの思いを膨らませていく一方。



「シンジ、会いたいよ・・・。」



 誰も居ない家の中でずっと言い続ける私。

 小さく呟いていたはずが徐々に大きくなり、

 しまいには涙がどんどん溢れて来た。



「シンジ・・・・。」




「お母さん、調子はどう?」



「うん、今日は良いみたい。」

「それにしてもアスカは可愛いわね。

 昔から可愛かったけど、今はもっと可愛いわ。」



「当たり前じゃない。

 昔の私と今の私は全然違うんだから。」



 なんて、他愛も無い話をしているうちに、

 いつの間にか"退院"という話に変わっていった。



「さっきね、先生から話があったんだけど、

 そろそろ退院できるみたいなの。」



「そ、そうなの?」



「今まで色々ありがとうね、アスカ。」



 声色が変わったのを察した。

 さよなら、雰囲気はそう告げているように、

 寂しく、少し儚げなものだった。



「当たり前でしょ、お母さん。

 お母さんは私のお母さんだもん。

 大事に思うのは当然でしょ?」



 別れが近づいているとアスカは感じた。

 その別れはアスカの気持ちのドアをこじ開けていった。



「それにお母さんに何かあったら、

 私、どうなるか分からないもん。」



(一人は嫌だ、それはお母さんだって同じ。)



「日本に居た頃は、シンジがずっと傍にいてくれたの。

 私が一人で悲しんでるときもずっと・・・。

 だから、私もお母さんの傍に居たかったの。

 一人より、二人の方が何か楽しいでしょ?」



 私の目の前に居るお母さんは、今にも泣き崩れそうだ。

 それでも必死に笑顔を取り繕っているという事は丸分かりで、

 そんなお母さんを見ていると、こっちまで泣きたくなってくる。

 次第に目の周りが凄く熱くなって、視界がぼやけていく。



「アスカ、本当にありがとうね。

 貴方がここまで思っててくれたなんて、

 お、お母さん、凄く嬉しいわ・・・。」



「やだ、もう泣かないでよ。

 お母さんが泣いたら、わ、私まで・・・」



 必死に私は目の周りを手で拭った。

 私の温もりが涙となってどんどん溢れてくる。

 部屋中に私の嗚咽が響き渡っていく。



「アスカ、お母さんもう十分だよ。

 お母さんはね、自分の体調の事なんかより、

 アスカの将来の事とかの方が大事なの。」



 そっとお母さんは私を抱き寄せた。

 お母さんの涙が私の頬を濡らしていく。

 お母さんの頬から私の頬へと、温もりが伝っていく。



「シンジ君にちゃんとお礼言わないとね。

 アスカがお母さんを支えてくれたように、

 同じぐらいシンジ君はアスカを支えてくれたから。



 お母さんの大事な大事な宝物を、

 ずっと守っててくれたんだから。」




「アスカ、もう行くのね。」



「うん、シンジとの約束だもん。」



 お母さんは無事に退院することができた。

 その頃にはすっかり元気になっていて、



 "お母さんはもう大丈夫、シンジ君に会いに行ってきなさい。"



 私の気持ちを察してか、退院して直ぐにお母さんは勧めてきた。

 始は頑なに拒んではいたけど、最後には折れて、

 日本へ戻る事を、シンジに会いに行くことを決めた。




「シンジ、今から会いに行くからね。」



 太陽が小さな窓から私にめがけて光を浴びせてくる。

 眩しさに目を閉じて、小さく微笑んだ。



 もうすぐ、シンジに会える。

 今はその現実が素直に嬉しく感じた。

   
次の話へ

前の話へ

目次へ

感想を BBSにてお待ちしております。