便箋
丁度十年前に遡る。
アスカとミサトさんと僕とで一緒に暮らしていた。
その頃の僕はそれが当たり前なんだと感じていた。
一緒に笑って、一緒に悲しんで。
僕達3人は本当の家族のようだった。
「アスカ・・・、行っちゃうんだね。」
「シンジったら私がいなくて寂しいの?」
「そんなんじゃないよ。
ただ、まだ実感が湧かないっていうか、
もうアスカはドイツに帰っちゃうのに、
その・・・、今になっても信じられないんだ。」
「でも、安心しなさい。
何年後か、何十年後か分からないけど、
絶対またシンジに会いにいってあげるから。」
「だから、シンジには待ってて欲しいの。
私が帰ってきたときに、
シンジがいないと寂しいから。」
アスカと最後に言葉を交わした日。
そんな日から、もう十年も経っているのに、
アスカからの連絡は未だ無し。
(本当に会いに来てくれるのかな。)
手足を大の字に広げて床にひれ伏し、
ぐっと力を入れて胸を張ってみた。
「今日は丁度十年後。
もしかしたら、メールとか来てるかも。」
あの後パソコンを開いてメールが来てないか確認してみたけど、
僕の期待とは裏腹に"新着メッセージなし"・・・・。
いつもよりやけに寂しく、悲しく感じる。
アスカは本当に何をやってるんだろうか。
部屋から見える青空をぼんやりと眺めた。
「今何やってんだよ、アスカ・・・。」
無意識にブツブツと思いを声にする。
その一言一言が自分の胸に響いてくる。
「会いに来いってことなのかな・・・。」
会いにきてくれないなら会いに来るしかない。
でも、もしアスカに彼氏とか出来ていたら、
アスカにとって、それは凄く迷惑なことなんじゃないだろうか。
ちょっとした不安がより一層大きくなってくる。
理由は簡単だ。
会いに行く相手がアスカだからだ。
幸せを僕ばかりがアスカから貰っていたから、
今度こそアスカには幸せになってもらいたい。
もうアスカを傷つけるのは嫌だ。
アスカは綺麗だし、可愛いし。
彼氏の一人や二人、出来ても当然だろう。
それに、そっちの方が僕は安心できる。
だって、僕みたいな男以上の男を見つけたわけだから、
きっと僕よりもアスカを幸せにできるから。
「でも、それじゃ僕の気持ちはどうなるんだろう。」
僕の気持ちは一体何なのだろうか。
アスカを幸せにすることなのか、
それとも僕が幸せになることなのか。
もし、前者なのだとしたら、
アスカに彼氏が出来ていたと想像したぐらいで、
こんなに不安になったりするだろうか。
僕はやっぱり最低なのかもしれない。
自分の幸せしか考えることができない。
アスカに会いたいって思う気持ちだって、
結局は僕自身が早く会いたいからなんだ。
もし、出来ることならば、
もう一度過去に戻って、人生をやり直したい。
自分自身の事しか考えない碇シンジじゃなくて、
アスカの事も、それ以外の人のことも考えれる碇シンジになりたかった。
「僕みたいな奴じゃアスカには似合わないってことか。」
(気晴らしに散歩でもしに行くか・・・。)
ふとそう思ったと同時に、僕は玄関に向かった。
雲一つ無い空、久しぶりの快晴だ。
眩しいばかりの日照りに蒸し暑く感じるが、
それを跳ね除けるかのように、心地よい風が吹いている。
「あの頃とは違うんだよな・・・。」
呆然と目の前に広がる景色につい言葉が漏れた。
あの頃と10年前の景色を頭の中で重ねてしまったから。
今この時でさえ、何かが変わっている。
その変化に気付かないだけで確実に動いている。
「でも僕は、あの頃からずっとアスカのことが・・・。」
そんな世界の常識でさえも僕の心は動かせなかった。
それほど想っていたということを改めて気付かされるぐらいに。
遠くから車のエンジン音が聞こえてくる。
音の大きさからして大型トラックだろう。
徐々に大きくなっていく音に耐えられなくなり、
音のする方へと視線を向けた。
「ん、宅配便か。」
視線を向けたと同時にトラックのエンジン音は鳴り止み、
ここ、コンフォート21の前で停車した。
「まさか・・・ね。」
シンジへ。
今まで電話の一つもしないでごめんなさい。
ドイツに帰ってきてからは凄く忙しくて、
シンジに連絡する暇さえなかったの。
近々、日本に戻ろうと思います。
それまで楽しみにしててね。
それと、私が来るまでの間に、
積んであったものを全部整理すること。
後、ハンバーグもちゃんと作っててね。
本当はもっと話したいことあるんだけど、
それは会ってから話すことにするわ。
じゃあ、またね。
惣流・アスカ・ラングレーより。
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