極上のご褒美









「シンジ! アンタに罰を与えるわ!」

「な、急に何言い出すんだよ!」



 シンジが悪いのよ。

 風呂の温度の設定を間違えたからいけないんだわ。



「何でか分かんないの?

 なら、お風呂に手入れてみなさいよ!」



 シンジは恐る恐るお風呂に手を入れた。

 ほらね。シンジは私が怒っている理由をやっと理解できたみたいだわ。



「アスカ・・・・ごめん。」

「謝んなくていいわよ。それより、

 アンタに罰として今日は、一日中私に付き合うこと。

 いいわね?



 私は今日という日をどれだけ待ち望んだことか。

 絶対、シンジを私の物にしてやるんだから。



「分かったよ。一日中付き合えばいいんでしょ?」



 ふふ、分かってるじゃないの。

 ま、美少女が一日中付き合ってってお願いしてるんだから、

 断る男なんてこの世にはいないと思うけど。

 でも、この計画は計算の上に計算を重ねて実行したんだから。

 特に色仕掛けには力を入れたわ。

 バスタオル一枚の私を見たら、シンジだってイチコロのはずだし。



「遊園地に行きたいところだけど、

 風呂、沸かしなおしてよね。次失敗したら殺すわよ。」



 殺しはしないけど、次は無いわよ。シンジ。



「わ、分かってるよ。じゃあ、アスカ。

 ちょっと待っててよ。」



 シンジは慣れた手つきで風呂の温度を設定していく。

 ま、シンジがこんな失敗をしたのは、

 私が風呂の設定温度を変えたからなんだけどね。

 我ながらいい作戦だったわ。



「ねぇ、シンジ。いつになったら沸くのよ。

 アタシ風邪ひいちゃうじゃないの。」

「じゃ、じゃあ。服着てリビングで待っててよ。」



 シンジにもっかい罰与えちゃおうっと。



「シンジ。か弱い女の子が風邪ひくところだったのよ?

 もっかい罰を与えてあげるわ。

 明日も一日中、私に付き合いなさい。」

「そ、そんなぁ。明日ぐらいゆっくり休ませてよ。」



 シンジったら、だらしの無い顔しちゃって。

 今日と明日は一日中、

 シンジと一緒にいられるなんて夢みたいだわ。



「だ〜め!

 明日も私と一日中一緒にいるの。

 いいわね?

「は、ハイ。」



















「アスカ。早くしてよ。」

「五月蝿いわね。

 お化粧してるんだから、少しぐらい待ちなさいよ。」



 まだ、中学生だから化粧ぐらい簡単なものしかできないけど、

 それでも、やっぱりシンジと一緒にいるからには、

 キレイな私でいたい。だから、時間を掛けて化粧してるのよ。

 そんなことも分からないのかしら。ったく鈍感ねシンジは。



「ハイ、お待たせ。」

「ア、アスカ・・・・。」



 な、何よ。私の事ずっと見つめちゃって。

 そんなに見つめられたら照れるじゃない。

 ちょっと顔が熱くなってきたかも。



「な、何。何か顔についてるかしら?」

「い、いや。ただキレイだなって。」



 シンジが私の事、キレイって。

 この言葉をどれだけ私は待ち望んでいたことか。



ありがと。シンジ。はあと)」

「ん? アスカ、何か言った?」

「何も言ってないわよ。

 さ、早く行くわよ。遊園地が閉まっちゃうじゃないの。」



 今の私はキッとだらしの無い顔をしてるんだろうな。

 こんなのシンジに見せてたまるもんですか。

 私は、シンジに顔を見せないように、

 シンジの手をとり、強引に歩いた。









「案外早くついたわね。」



 結構、早く遊園地についた。

 電車で一時間ぐらいのところなんだけど、

 シンジとずっと喋ってたから、直ぐついたように感じた。



「そうだね。それより、最初にどこいく?」



 シンジ。覚悟しなさいよね。

 貴方はもうすぐ私のものになるんだから。



「ねぇ、シンジ。お化け屋敷いこうよ!」



 私はシンジを私のものにするという使命がある。

 その為にも、まずシンジを引き込む必要があるわ。

 だから・・・ちょっと怖いけどお化け屋敷に行くことにした。



「あそこのお化け屋敷。怖いらしいよ?

 テレビにも出てたしさ。

 アスカは怖がりだから、行かないほうがいいと思うけど。」



 誤算だわ。ここのお化け屋敷がそんなに怖いなんて。

 それに私は大のお化け嫌いだし・・・・。

 これは演技とか関係なしに、シンジに頼るしかないわね。



「ハンッ。だ、大丈夫よこのぐらい。

 さ、シンジ。早く中に、は、入りましょう。」



 私は内心ビビりながらも、お化け屋敷にいくことにした。



「ね、ねぇ。ちょっと暗すぎじゃない。」



 私は入って早々、足がすくんでしまった。

 無理も無いわ。無敵のアスカ様でもお化けには勝てないもの。

 それに、中は凄く暗いし、緑色の不気味な光が点滅してるし、

 やっぱり入ってくるんじゃなかった・・・・。



 "頑張るのよ。アスカ!

  貴方にはシンジをものにするという使命があるじゃない。"



 私は、心の中で怯えている私自身に喝をいれた。



「あ、アスカ。大丈夫?

 相当、震えているようだけど。」



 私ったらいつの間にか、震えていたようだわ。

 それに、シンジの腕にピッタリくっついちゃってるし。

 これはいいチャンスだわ。

 シンジの腕に私のナイスバディな体をスリスリできるんだから。

 これでシンジは落ちたようなものね。



 キャァァァァァァァ!!



 はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。死ぬかと思ったわ。

 な、何なのよ。この冷たいニュルニュルした物体は。



「あ、アスカ。そんなに耳元で叫ばれたら、

 こっちがビビっちゃうじゃないか。  しかも、コンニャクぐらいで。」



 これはコンニャクっていうのね。

 日本に来て3年目になるけど、

 今までコンニャクっていうものがある自体知らなかったわ。



「ビビって何かいないわよ。

 ビビる練習をしていただけなんだから。」

「じゃあ、今まで以上に震えているのは気のせいだね。」



 わ、私としたことが。

 コンニャクごときで、ここまでビビってしまうとは。



 キャァァァァァ!!

 ヒャァァァァァ!!

 キャァァァァァァ!!


 こ、これで作戦その1は遂行したわ。

 何で始めからこんなに疲れなくちゃいけないのよ。

 体中からは嫌な汗は出るし・・・・。

 シンジにベッタリしたいけど、臭ってたら嫌だし。



「アスカ・・・ホントに大丈夫?

 相当、怖かったみたいだけど。」

「だ、大丈夫よあのぐらい。

 あんなの怖いわけないでしょ。」



 口ではそういってるけど、

 未だに足は震えているし、声は裏返っているし、

 説得力が無いに等しい。



「次は休憩程度に観覧車にでも乗ろうか。」



 ヤバイは。そこで告白しようと決めていたのに、

 今行ってしまうと、告白するときがなくなってしまう。



「観覧車じゃなくて、ジェットコースター乗ろうよ。」



 私の計算では、次にジェットコースターに乗らないといけないのに。

 シンジの奴・・・・私の計画を台無しにするきなのかしら。



「でも、ジェットコースターすごく並んでるよ。

 観覧車だったら直ぐに乗れるのに。」



 ジェットコースターはおよそ一時間待ち。

 普通に考えて、ジェットコースターごときでこんなにも

 並んだりすることはないけど、

 幸運なのか不運なのか、6台の内半分が故障していて、

 動けないし、それに、今日は土曜日だから、なお更人が多いの。

 私は渋々、シンジの言うとおり観覧車に乗ることにした。



















「お〜い、アスカ? 聞いてる?」

「あ、ごめんごめん。それで?」



 シンジの声が私の心臓の高鳴りでちゃんと聞こえない。

 分かるのはシンジの口が動いていることぐらい。



「それでじゃないよ。何かアスカ変だよ?

 急に遊園地誘ったりさ。」



 シンジにしては鋭いわね。

 って感心してる場合じゃないわ。

 早く、早く告白しないとッ!



「あ、あのね。きょ、今日は、その・・・・・・」



 緊張しすぎてハッキリ喋れないじゃない。

 これは、非常にマズイ事態だわ!



「アスカ、落ち着いて。」



 そ、そうね。落ち着かないと。

 大丈夫言えるわ。言える言える。

 告白ぐらい私にだってできるんだから。



「じ、実はね。今日はシンジに話したいことがあったの。」

「話したいこと?

 それだったら別に遊園地に来なくたって。」



 シンジは何にも分かってないんだから。

 こういうのはムードが良くないと駄目なものなのよ。

 ま、それがシンジらしいんだけどね。



「そんな細かいことはどうでもいいのよ。

 さ、本題に入るわよ。」



 私が意を決して告白しようとしたとき、

 丁度、一番上の辺りにまで到達した。

 目の前には言葉で表せないほどの美しい景色が広がっていた。



「キレイだね・・・。」

「うん、凄くキレイ。」



 第三東京市の外れにあるこの遊園地。

 ここから見える景色からは、

 使徒とという化け物との戦いが起こっているなんて、

 想像もできやしないだろう。

 数え切れないほどの兵装ビルが夕焼けを、

 鮮やかに反射させて淡く光輝く兵装ビル群。

 私の緊張が解けていく。

 ふと横を見ると同じように見ているシンジがいる。

 今なら言える気がする。

 シンジに、シンジに私の気持ちを言える気がする。



「シンジ・・・・。  シンジの事好き。」



 好き以外に私の気持ちを表せる言葉なんてない。

 だからこの一言で十分。

 私の想いは絶対にちゃんと伝わってる。



「アスカ。その、僕も好きだよ。

 アスカのことが。」



 シンジ・・・・。シンジのこと好きになってよかった。

 光り輝く兵装ビルを背にシンジは私に微笑みかける。

 その微笑は私の全てを優しく包み込んでくれる。



「私のこと嫌いになったら殺すわよ。」

「僕がアスカのこと嫌いになるわけないだろ?」



 そんなことぐらい分かってるわよ。

 シンジの癖に生意気だわ。

 ホントに、ホントに生意気。シンジの癖に。



 ガタッ ゴトッ













「すいませ〜ん。早く降りてもらえませんか?」



 あ、もう終わっちゃったんだ。

 私の計画ではシンジとキスしてハッピーエンドだったんだけどな。



「アスカ早く降りないと。」



 分かってるわよ。

 シンジに言われなくても降りるわよ。



「アスカ。また明日来るんでしょ?

 ここに。」



 え、何を言ってるんだろ。

 そんな約束して・・・・・・・・たわね。

 約束っていうか罰だけど。



「来るに決まってんでしょ。

 まだシンジへの罰は終わってないんだから。」

「アスカと遊園地に来る罰ならいくらでも受けるけどね。」

「な、シンジの癖に生意気よ!」



 シンジの癖に生意気だわ。

 私の顔を熱くするなんて。

 さっき告白したときは全然緊張なんてしなかったのに。









 こんな感じで私の罰という名の計画は成功した。

 そして、また私は遊園地へ行く。



「アスカ。早くしてよ。」

「ちょっと待ってよ、シンジぃ〜。(はあと)」



 えへへ。シンジが私の恋人になったからには、

 今まで以上に甘えてやるんだから。

 覚悟してなさいよねッ、シンジ!

 今度は罰じゃなくて、極上のプレゼントを与えてあげるんだからッ!!

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