恋の方程式









 一つの方程式を解くのに、

 方法はいろいろあるが、

 方程式の解は一つしかないのだ。



 そして恋にも方程式は存在する。

 自分の恋を実らせる為には、

 恋の方程式成るものを解かなければいけない。









 僕はある事で悩んでいた。

 その事、いやその人を思うと心が締め付けられる。

 その人と眼が合うと体全体が熱くる。

 その人に声を掛けられると意識が飛びそうになる。



 どうしたらいいんだろう。





 とはいえ、今は数学の授業中だ。

 目の前にある難解の方程式を解くのに僕は必死になった。









 授業が終わり僕は未だ方程式を解けずにいた。

 正直言うと、頭の中はその人の事でいっぱいだったせいかもしれないのだが。



「シンジ、さっきの方程式解けた?」



 僕の目の前には、

 赤みかかった艶のある髪の毛。

 制服の上からでも覗えるほどの豊かな胸。

 白く光り輝いているような長い足。



 同居人であり、クラスメートであり、

 僕の想いを寄せている人でもあるアスカがいた。



 不意にも僕の顔は赤くなってしまう。

 視線をアスカから数学のノートへと移す僕。

 そこには未だ解けずにいる方程式があった。



「まだ、解けてないんだ。」

「アスカは解けたの?」



 どうせアスカの事だから解けてるんだろうな。



 僕はそんな気持ちでアスカに聞き返した。



「それがまだ解けてないのよね。

 いつもと変わらない方程式なのに。」



 僕の視線の先にある方程式は、

 何の変哲も無いただの方程式。



 そりゃ難しいのは確かだけど、

 アスカなら出来ると思っていた僕は、

 正直驚いた。



「僕もまだ解けてないんだよ。

 それにしてもアスカも解けないなんてよっぽど難しいんだね。」

「難しいというより、

 冷静に解くことができないだけなの。私は。」



 どこか厳しく語るアスカの頬が、

 赤らめていく気がするしたけど、

 その時の僕は何も気にしないでいた。



「冷静にすればいいだけじゃないの?」



 自分の言っていることは正しいのだが、

 アスカと同様、僕も冷静にできないでいた。



 僕の場合はアスカを想っていたから。



 じゃあ、アスカの場合は?



「それができないのよ。」

「どうして?」



 アスカの場合はどうして冷静にできないんだろう。

 それは何か考え事をしていたからだ。



「どうしてって言われてもねぇ・・・。」



 またアスカの顔が赤くなっていく。

 同時に僕の顔も。



 僅かにも僕達の間に沈黙が流れる。



 お互い見つめあったまま、

 ゆっくりと時が過ぎてゆくのを僕は只管待った。



「僕も冷静になれないんだよ。」



 この沈黙に耐え切れなくなった僕は、

 この場の雰囲気を打破するべく、

 唐突にも声を出した。



「どうして?」



 正直迷った。

 ここで僕の気持ちを有りのまま言うべきか、

 それとも高鳴る鼓動を抑えて口を閉じるか。



 僕の出した答えは、



「アスカの事を、考えてたからかな。」









 アスカに気持ちを伝えた、というかまだ"好き"とは言ってないけど、

 あれから僕の中で、ある程度気持ちの整理はついた。



 そして、あの方程式も何故か簡単に解けた。



 でも、未だ解けずにいる方程式がある。



 僕の恋。

 この世で一番難しくて、一番単純な、

 それは、甘くほろ苦い方程式。
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