色褪せない記憶









 そっと甦る記憶。



 青くて広大な海、若葉色に靡く草原。



 こんなにも美しい記憶だけが甦ってくれれば、

 どんなに嬉しいことだろうか。

 何の変哲も無く、ただ美しいだけの景色が、

 どれほど心に変化をもたらすかということが、

 今更になってようやく分かったきがする。



 でも、この景色も記憶に過ぎない。

 青くて、若葉色?

 そんなのは所詮、勝手に自分で書き換えている過ぎない。



 実際は、もう色褪せていて、

 どんな色をしていたのかも、凄く曖昧。



 日に日に美しさを増し続ける記憶。

 日に日に色褪せ続ける記憶の景色。





 変化といえば、美しい景色だけではない。



 辛くて、悲しくて、思い出したくない記憶も、

 そっと甦ってしまうときがある。



 まるで時を遡っているかのように、

 鮮明に悲痛に心がズキズキ痛む。



 記憶を過去を未来を。

 自分の思うとおりに動かすことができれば・・・。



 いつも、こう思ってしまう自分に対して、

 更に嫌悪感を募らせ続けてしまう。









 そんな僕の記憶の中にも、

 美しくて、心が痛んで、

 それでいて、とても大切な記憶がある。



 どの記憶も色褪せ続ける中でも、

 その記憶は色褪せることを知らず、

 本当の意味で、日に日に強く濃くなっていく。



 どんなに心が痛む記憶でも、

 その記憶を思い出すだけで、

 何か別の痛みに変わってしまう。



 ただ言えることは、

 その痛みは幸せだと感じてしまうということだけ。









 強く心に住み続ける記憶。

 その記憶は、少しずつ数を増やしていく。



 毎日毎日、新しい記憶が、

 僕を幸せにしていく。





 死ぬまで忘れたくない記憶。

 でも、記憶は少しずつ失っていく。



 だから、僕はその記憶を毎日思い返す。



 これだけは忘れたくない。

 これだけはずっと留めていたい。





 アスカとの記憶。

 僕が唯一、忘れようとしなかった記憶。
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