中学生のプロポーズ









 私には恋敵がいる。

 綾波レイ。

 私とは容姿、性格、全てにおいて正反対の人間だ。



 そして、私たちが夢中になっている少年。

 普段はとても冴えなくて、女っぽい。

 だけど、いつも私を助けてくれた。

 その人の名前は碇シンジ。









「碇君。」

「何? 綾波。」



 私の目の前でシンジとレイが喋っている。

 悔しい。

 シンジが私以外の女と喋るなんて。



 レイの視線が一瞬私と重なる。

 勝ち誇った様子でこちらを見たレイの視線。

 私もレイを強く睨みつけた。



「一緒に帰らない?」

「僕、今日はちょっと。」



 ふぅ。一先ず安心だわ。

 レイとシンジが一緒に帰るなんて私には想像できないもの。



「そう、ならいいわ。」

「ごめんね。綾波。」



 またレイと視線が重なった。

 今度は私が勝ち誇った視線をレイにお見舞いした。

 レイはというと・・・私の視線を無視して教室を後にした。

 レイの"何でもないわ"って感じの顔が気に入らないわ。



 私は少しばかり視線をレイの背中に向けていた。

 ふと視線を外すと目の前にはシンジがいた。



「ど、どうしたのよ。」

「いや、ちょっと。」



 どこかシンジの顔が火照っているのは気のせいだろうか。

 同時に私の顔も熱くなっている気がする。



「で、何よ。」

「その、一緒に帰らない?」



 レイには無理って言っていた。

 でも、何で私に帰ろうっていったのかしら。



 自分の恋愛に鈍感なアスカは、

 シンジが自分のことが好きだということに全く気づいていない。

 もちろん、クラスの全員はアスカとシンジが相思相愛だということを知っている。



「まぁ、いいわ。」

「ほ、ホントに。

 じゃあ、早く帰ろ。」



 いつになくテンションの高いシンジ。

 よっぽど嬉しいことでもあったのかしら。



「何かやけに嬉しそうね。」

「そう?

 別にそうでもないけど。」



 口では否定しているけど、

 絶対何かある。









 私の隣にシンジがいる。

 さっきとは違って少し緊張しているようだった。



「シンジどうかした?」

「あ、アスカ。

 アスカに渡したいものがあるんだ。」



 渡したいもの?

 一体何だろう。

 今日は私の誕生日でもないし。



 シンジはポケットから小さな青い箱を取り出した。



「そのこれ。」



 シンジの手によって箱が開けられる。

 中には安物のような指輪が入っていた。



「な、何これ?」

「その、今日はアスカが日本に来て丁度一年でしょ?

 だから、プレゼントでもあげようかなって。」



 嬉しい。

 今日が日本に来て丁度一年になるなんて気づいてもいなかった。



「ありがと。」

「あと、話したいこともあるんだけど。」



 シンジは咳払いしながら、

 正面にいるアスカを改めて見据えた。



「何?

 話したいことって。」

「えと、僕が大人になって、

 ちゃんとした給料を貰えるようになったら、

 今度は安物の指輪じゃなくて、

 本物の指輪を買ってあげるから。」



 それって・・・。



 シンジは顔を赤くしながらもアスカを見つめ続ける。

 と言ってもシンジの足は小刻みに震えているのだが。



「それって、婚約指輪ってこと?」

「・・・そうだよ。

 いつかアスカに渡したいと思ってる。

 アスカ。僕はアスカの事好きだよ。

 いや、愛してる。」

「シンジ・・・・。」



 わ、私。シンジにプロポーズされたんだ。

 まだ中学生なのに・・・。

 でも、凄く嬉しい。

 言われた相手がシンジだからかな。



「その駄目かな?

 アスカの返事が聞きたいんだけど。」



 馬鹿ね。シンジは。

 私が断るわけじゃないの。



「そんなの決まってるじゃない。

 私もシンジの事愛してるもん。」





 私の事捨てたら承知しないんだから!
目次へ

感想を BBSにてお待ちしております。