追いつきたくて









　僕はいつもアスカの背中だけを見ていた。

　細くてか弱そうなアスカの背中。

　でも、僕にとっては凄く逞しく見えて、

　ただ見つめているだけで僕は勇気を貰えた。



　僕は気づこうとしなかった。

　アスカが悲しんでいる事、傷ついている事。

　背中だけを見ていた僕は何も気づかずに、

　ただアスカを悲しませ、傷つけていた。











　いつもアスカを追いかけていた。

　僕の一歩前を歩き続けるアスカと、

　同じ歩調で楽しく歩きたかったから。

　もう、背中だけを見ているのは嫌だったから。



　でも、それを拒むかのように、

　また歩調を速めて僕を引き離そうとする。





　そんなアスカも時々、後ろを振り返ってくれる。

　それが何よりの救いで、凄く嬉しく感じてしまう。

　でもその瞬間は刹那的で、気がついた時には、

　前よりももっと先を歩いていた。



　前だけを向くんじゃなくて、

　もう少しだけでもいいから立ち止まって、

　後ろを振り返ってもいいんじゃないかな。





　僕はいつまでもアスカに追いつけないままなのかな。

　いつだって僕とアスカの間には距離があって、

　どんなに頑張って縮めようとしても、

　縮まる所か、逆に大きくなっていくばかり。



　そんなに強がらなくてもいいのにって。



　後ろから叫んでもアスカは僕の気持ちに気づいてくれないだろうね。

　だからこそ、僕はアスカに追いつきたいんだ。

　そうでもしないとアスカの気持ちも、

　何も分からないままになってしまうから。





「アスカ、待って！」



　後ろから僕は大声で叫んだ。

　本当は聞こえているんだろ？

　なら、どうして振り返ってくれないの？

　何で僕には、背中しか見せてくれないんだ･･････。



「アスカ……。」



　それが凄く寂しくて、悲しくて。

　僕の気持ちに気づいてくれないアスカが、

　少し憎くて、それでも、まだ僕は追ってしまうんだ。












　この先、アスカに追いつく事ができなかったとしても、

　僕はこれからもずっとアスカだけを追い続ける。



　僕の声は届いているんだから。

　ただ、アスカは僕の気持ちを、僕はアスカの気持ちを。



　伝えたくて、知りたくて。



　そんなもどかしさを抱いて、

　ゆっくりと小さな一歩を歩もうとする。

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