再会
暗闇の中で小さな希望を見つけた僕。
そう、最後の最後まで会えるって信じていたからだろうか。
僕はその場を駆け出した。
どうしてだろう。
足が勝手に動いているような感じがする。
引き返そうとしても、止まろうとしても、
僕の足は階段へと真っ直ぐに走り続ける。
階段を勢いよく駆け下りた。
一歩一歩、足を踏み出すにつれて、
僕の心の中は、膨らみ続ける希望と不安でいっぱいになっていく。
やっとの思いで一階についた。
呼吸を荒げながら、僕は施設の玄関に通じるドアの前に、
ゆっくりと、腰を下ろした。
この先にアスカがいる。
そう確信付けたのは、向こうから聞こえてきた少女の言葉だった。
「久しぶりね、ミサト。」
この透き通っていて、美しい声。
間違いない、アスカだ。
胸を包んでいた不安はいつの間にか、
どこかに消え去り、変わりに喜びが包み込んでいる気がした。
ゆっくりと立ち上がった。
不意にも僕の右手の拳に力が入る。
自然と体中が汗ばんでくる。
緊張しているのだろうか。
「久しぶり、アスカ。
どうする、シンジ君と会う?」
「ううん、明日にするわ。
もう、寝てるんでしょ?」
そんなことあるわけないだろ。
僕が一番、アスカを待ってたんだから。
「さぁ、それはどうかしら。
案外、そこのドアの向こうで私達の会話を盗み聞きしてるかもよ?」
「そんなことあるわけないじゃないの。」
「どうかしらね?
シンジ君出てきたら?」
何でミサトは僕がいるってことを・・・・。
まぁ、今は関係無いか。
アスカに会いたい。
今までずっと会いたかったんだ。
僕は汗ばんだ右手でドアノブを回した。
「あ、アスカ。久しぶり。」
「し、シンジ?シンジなの?」
「シンジ君・・・ホントにいたんだ。」
勘がいいのか悪いのか。
ホントにミサトは何考えてるかわかんないよ。
僕の目の前にいる少女。
歳は同じぐらいだろう。
赤色がかかった艶のある髪。
透き通るような青い瞳。
間違いない、アスカだ。
やっぱり帰って来てくれたんだ。
「その、やっぱり帰って来てくれたんだね。」
「そ、そんなの当たり前でしょ?!」
ホント、変わってないな。
昔のように気が強いや。
それより、後ろにいる男の人と女の人は・・・。
「シンジ、久しぶりだな。」
「シンジ、久しぶりね。」
「失礼ですが・・・誰ですか?」
前に会ったような、そんな気がする。
もしかして、お父さんとお母さん?
二人の男女はお互い目を合わし、
少し険しい顔にしかめる。
「もしかして、お父さんとお母さん?」
「フッ、そうだ。」
「そうよ、シンジ。」
お父さんとお母さんに会うのも十年ぶりか。
何でだろ・・・・。
目の中からどんどん溢れ出して来る。
涙・・・。
今、凄く幸せだと感じているのは何故だろう?
涙を流しているのに・・・・。
「ねぇ、シンジ。
話したいことあるんだけどいい?」
あれから、数週間。
アスカは僕が通っている中学に転校してきた。
来て早々、絶大な人気ぶりで校内の半数以上が想いを寄せているほど。
当のアスカは、男の告白を聞いているのか、いないのか。
全ての気持ちに応えることなく、見事に振っていった。
「アスカ、ちょっといい?」
「ん、何よ?」
「何で、付き合おうとしないの?」
告白した奴らには、
サッカー部のキャプテンや、野球部のキャプテンなどなど。
女子からも結構人気の男子とも付き合おうとしないのだ。
「私には好きな人がいるからよ。」
「ふ〜ん、そっか。」
好きな人か・・・・。
一体誰なんだろうな、その人って。
「好きな人誰?とか聞いたりしないわけ?」
「だって怒るだろ?」
それに、どうせ聞いて後悔するのは僕なんだ。
僕は好きなんだ、アスカが。
そのアスカの口から、他の男が好きだと聞いたら、
絶対に立ち直れなくなるに決まってるから。
「それ、私が怒りっぽいって言いたいの?」
「ち、違うよ。
ただ、その・・・・。」
聞きたくないけど、聞きたい。
アスカの気持ちを知りたいと思った。
それが後悔するかもしれないけど。
「シンジが聞きたいって言うなら、
教えてあげてもいいわよ。」
「え、で、でも・・・。
じゃ、じゃあ教えて。
アスカの好きな人を。」
「私はシンジが好き。」
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