流れ出す記憶









 忘れない。と思ったことも、

 人は簡単に忘れてしまう。



 忘れたくない。と思っていても、

 それは無意味な感情で、

 いつか心の奥底に閉じ込められてしまう。









 由美は俺に言った。



 幸人といる時間は一生の思い出だって。



 その頃の事をふと思い出しただけで、

 少し切ない気分にいつもなってしまう。

 俺も由美といる時間は掛け替えのない時間だと思っていた。

 でも、そう思っていた俺でさえ、

 今では時間が経つにつれて由美の顔が思い出せなくなってくる。



 その度に由美の写真を見つめて脳裏に焼き付ける毎日。



 新しい恋愛をしなさいと、由美の母さんは言うけど、

 由美以外の女なんて考えられないし、

 なにより由美に申し訳なく感じてしまう。



 一体、俺は何の為にこれからを過ごしていけばいいんだ。

 何も分からないまま、俺は今を生きていた。







 死のうと思ったことがあった。

 日に日に色褪せていく由美の顔を見るのが嫌になったから。

 由美を愛していたのに、忘れていく自分が嫌になったから。



 でも、死ぬ事はできなかった。



 勇気が無かったのも事実、死にたくないと直前に思ったのも事実。

 でも、それ以上に俺を突き動かしたもの。



 それは由美の顔だった。

 血塗れで、こっちを向いている由美。

 由美の顔は凄く儚くて、綺麗で、

 血さえも、顔を輝かしているようで。



 死ぬ寸前に由美が言った事。



「幸人・・・・私、死にたくないよ。

 死にたくない、死にたくないよ、幸人!」



 思い出したくない記憶。

 でも、流れ出した記憶はこれだけじゃなかった。

 封印してきたはずだったのに・・・・。

 とめどなく溢れてくる記憶、そして俺の感情。



 由美の言葉を聞いて、顔を見て、俺はこう思った。



 まだ死ぬべき時じゃないって。

 由美の分まで頑張らないといけないって。











 由美・・・。

 もし、俺のしている事が正しかったんなら、

 笑顔で、優しい笑顔で微笑んでくれてるよな。