守り通せ









 二度と戻れない。

 後悔してもしきれない。



 あの日に戻れたらいいのに・・・・。







「ねぇ、幸人。

 今日泊まっていい?」



 俺には付き合って3年の彼女がいた。

 俺は心から愛していたし、

 由美も心から俺を愛していただろう。



「わりぃ、今日は無理かも。」



 その日は何だかゆっくりしたい気分で、

 遠慮がちにも断った。



「そっか、じゃあ私そろそろ終電だから帰るね。」



 由美の後姿。

 どこか悲しそうな後姿は今でも鮮明に覚えている。



 俺が見た最後の由美の後姿として。









「あ、幸人君?

 由美の母です。」



 翌日、俺は由美の携帯に電話をしていた。

 そして、出たのは由美ではなく、由美の母だった。



 ―え、今なんて・・・・。



「ゆ、由美が昨夜の電車の脱線事故で・・・、

 死んじゃったの。」



 気のせいだ。

 そんな急に死んだ何て言われても。



 気が動転せずにはいられない。

 だが、不思議なことに俺は冷静に受け応えしていた。



 由美が死んだことが悲しくないのか?

 いや、違う。

 俺は未だに信じられずにいるんだ。



 由美は死んでないって。









 あれから丁度一年。

 今でも由美はどこかで生きている気がする。

 でも、生きてないんだ。



 俺は目の前にある立派な墓に拝む。

 由美が眠っているお墓に。



「由美。俺、由美が居ないと生きてけないよ。」



 由美の命日になれば、何とか吹っ切れるだろうと、

 自分に言い聞かせて、この一年間を過ごしてきた。



 そう思ってたのに。

 唐突に襲われる絶望感に喪失感。

 あらゆる負の感情が俺を飲み込もうとする。



 何で俺はあの時泊めてあげなかったんだ?

 自分に対する憎悪の気持ちが湧いてくる。





 こんな俺を由美がみたらどう思うだろう。

 由美ならキッと俺を叱ってくれるんだろうな。



 由美、君がこの世にいないことぐらい分かってる。

 だけど、もう一度君に会いたい。



 君がいないということが、こんなに辛いだなんて。

 今まで由美がいることが当たり前だと思ってたのに。

 その辺り前はどれだけ幸せだったか。



 大切な事に気づくのは失ってから。

 ポッカリと空いた心の穴はもう埋めることはできない。



 だけど、僕にはやるべきことがある。

 それは、自己満足に過ぎないのかもしれないけど。



 由美、俺は由美の分まで幸せになるよ。



 俺にまた好きな人ができたら、

 今度こそ、その人を幸せにしてみる。



 そして、俺が死んだら、

『幸人のバカッ!!』ってまた怒ってくれ。









 由美は俺に教えてくれた。

 近くにある。

 失いやすい大切なものが。



 後悔する前に大切なものを守り通せって。
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