未来と過去









 俺は忘れない。

 由美と過ごした一夏を。



 今はもう、あの頃を思い出すことしかできないけど、

 それでも俺は、

 寂しさと嬉しさに浸りながら瞳を閉じる。











 ふと、目の前に広がったのは、

 暑い日ざしが降り注ぐ夏。

 そして、傍らにいるのは・・・・・。



 由美、俺の彼女だった人だ。



 今俺が見ているのは、

 多分、数年前の由美の姿。

 と、いうのも由美はもういないからだ。

 俺の傍にも、この世界にも。





「幸人、こっち向いて。」

「何だよ、急に。」



 そう、この声。

 思い出にしか残っていない由美の声。

 その思い出も年々新鮮さを失いっていく。



 その度に俺は思う。

 人は時間が経つと何でも忘れていく生き物だと。











「このアイス美味しいね。」

「そうか?」



 俺は意地悪だからこんな返事しかしなかった。

 あんまり俺が笑ってるから、

 いつも由美は膨れてたよな。

 頬をプゥと膨らましてさ。

 それが妙に可愛らしいから、

 もうちょっと意地悪してみたくなって。



 最後は俺が謝る破目にになるんだけど。



 でも、そんな時間が凄く楽しかった。

 由美もそう思っててくれてるのかな。

 俺には分からないけど、

 多分そう思ってるに違いないよ、きっと。













 ゆっくりと瞼を開ける。

 もう少し、思い出に浸りたかったけど、

 そうはしてられない。





 思い出は過去に過ぎない。

 もう変えることもできない。



 だから、俺はこれから広がっていく未来を、

 自分の為に、由美の為に変えてみせる。



 もうあの頃の俺じゃないんだから。


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