出会い
「今日は得しちゃったな〜。」
シンジとアスカは塾の外の公園で喋っていた。
外は真っ暗で、恐らく夜の10時は過ぎているだろう。
「こっちは損したけどね。」
(今月の小遣いもあと僅かだし。)
シンジはほぼ強引に缶ジュースを3本買わされていた。
もちろん、変な言いがかりをつけられてである。
当の命令して本人は上機嫌である。
シンジはそんなアスカを見て、深いを溜息をつくのであった。
「ところで、アンタ名前何ていうのよ。」
「僕は碇シンジ。君は?」
(そういえば、名前知らなかったんだよな。)
呑気に夜遅くまで喋っていた二人であるが、
先ほどまでお互い赤の他人で、ましてや面識もなかったのだ。
「私は惣流・アスカ・ラングレーよ。」
名前聞いて、どこか外国の人間だということが分かる。
顔立ちといい、スタイルといい、
どこか日本人とは異なっているところからみて、
どこか欧州辺りの国の生まれであることもある程度予想はついた。
「じゃあ、外国人?」
「私は日本人よ。
ただ、父がドイツ人だから、こんな外見なのよ。」
少しアスカから笑みが失われる。
どうかしたのだろうか。
何故か、見ている方も悲しさを感じるような雰囲気。
「どうか、したの?」
「ちょっと、父さんのことを思い出しただけよ。」
(父さん、何処に居るんだろ。
小さい頃に出てったきり・・・・・。)
父さんというとシンジも思い出していた。
小さい頃から父とはあまり会っていないシンジ。
というより、父母両方であるのだが。
「そっか、僕の父さん、今頃何してるんだろうな。」
「何って、仕事じゃないの?」
聞き返すアスカに、顔をしかめながら首をかしげるシンジ。
そう、シンジの父さん、そして、母さんは科学者なのである。
今も世界の何処かで研究をしているのだろう。
「まぁ、科学者だからさ、母さんと父さんは。
ずっと海外で研究してるから、
あまり会ったことないんだ。」
「そうなんだ、寂しくないの?」
(両親がいなくて寂しくないのかしら。)
親戚の家で暮らしているシンジ。
正直言うと寂しいと想うときもあった。
「今は寂しくないよ。
何かよく分から無いんだけどね。」
「何、それ。
どういうことかわかんないんだけど。」
(何かよく分から無いって、どういうことなのよ。)
少し考え深げに俯くシンジ。
シンジの顔を覗いたそうにずっと見つめるアスカ。
寂しくないってどういうことだろう。
二人は心の中で考えていた。
シンジは寂しいと感じない理由を。
アスカは寂しいと感じる理由を。
「多分、寂しさよりも小さな出来事が勝っているからだと思う。」
「余計分からなくなったんだけど。」
(ますます分からないじゃないのよ。)
「だからさ、寂しいと感じる時間よりも、
嬉しいとか楽しいとか、
そういった感情を感じる時間の方が多いんだよ。」
「ふ〜ん、そんなもんかな。」
寂しさを感じる理由。
それは何もしてないときだろう。
何もしなければ考えることも限られてくる。
「人と喋ってる時、寂しさを常に感じたりしないでしょ?」
「確かに、そう・・・・ね。」
(確かに、何かしているときは寂しいなんて感じないわね。)
不意にアスカの手に力がこもる。
メキメキと缶が音を鳴らしながら、形を変えていく。
「そろそろ、帰らなきゃ。」
「あ、もうこんな時間なんだ。」
公園の時計。
闇夜に薄っすら光り輝く時計の短い針は11の数字を指していた。
「じゃあ、帰るよ。」
「わ、私も一緒に帰るわ。」
(またね、か。)
小さな掛け声と共に立ち上がるシンジ。
立ちあがった時に少し甘酸っぱい香りがした。
(シンジの匂い・・・。
何か落ち着く匂いかも。)
「一緒にって、道同じ方向なの?」
「いいから、早く帰るわよ。」
二人は同じ方向へと歩みだした。
暗い公園の外に広がる都会の光へと。
不思議だな・・・・。
不思議だわ・・・・。
アスカとシンジは同じ事を考えていた。
何故かしきりにお互いのことを考えてしまうのである。
「じゃあ、またね。」
「うん、おやすみ、シンジ。」
もどかしく感じてしまう。
アスカが。シンジが。
このまま会えないままかも。
その不安が脳裏を過ぎる。
「あ、アスカ。」
「何、シンジ。」
「明日、またあの公園で10時頃待ってるから。」
「しょうがないわね、また明日行ってあげるわよ。」
シンジはアスカと出会い、
アスカもシンジと出会った。
一見偶然のように見える出会いでも、
実は偶然ではなく、特別な出会いなのかもしれない。
それはいづれ数年後、数十年後に分かるだろう。
自分の傍にいる人。
その人の出会いこそが、
生涯に一度きりしかない運命の出会いなのだと。
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