再会









 僕は少し戸惑っていた。

 この手紙を読もうか読むまいか。



 もし、読んだとしたら、

 僕は悲しみを正面から受け止めなければいけないことになるだろう。



 読まなかったらどうだろう。

 多分、死んでも死に切れない程の後悔を味わうだろう。



「アスカ・・・。

 どうして直接言ってくれなかったの。」



 僕は決めた。

 しないで後悔するより、して後悔したほうがいいに決まってる。

 そう思わないと何もかも進まない気がしたから、

 白い封筒の先を震える手のひらで掴んで勢いよく破った。





 シンジくんへ。


 わたしドイツにいくことになったの

 ほんとうはいきたくなかったけど



 シンジくんとあそんだひはすごくたのしかったよ

 シンジくんとまたあそべたらいいな



 シンジくん

 10ねんごにまたここであおうね

 すごくきれいになってかえってくるからね



 アスカより









「ミサトさん、そろそろですかね。」



 僕の鼓動は激しさを増していった。

 あの時から十年もの歳月が経っているのだ。

 アスカはどれくらいまで背が伸びてるんだろうとか、

 キレイな人になってるのかな、とか。



 アスカのことを考えるだけでも、体が熱くなってくるのを感じる。

 もし、本人と会ったら僕はどうなるのだろうか。

 それは、そろそろ分かるだろう。



 アスカが約束どおりに帰ってきているとしたらだが。









 そろそろ夜の12時頃。

 未だにアスカからの連絡も何もない。



 忘れているのだろうか、僕との約束のことを。

 もし、そうだとしても僕は責めるつもりもない。



 所詮、僕はアスカにとってその程度の存在だったってことなだけ。

 一々悲しむことなんてないんだ。



 そうやって僕は自問自答を繰り返していた。

 アスカの部屋の前にある小さな窓に顔を出して。



 僕の心を悲しみに突き落とすかのような冷たい風。

 本来ならば、そこまで冷たくはないのだけど、

 今の僕にとってはそう感じた。



 風につられてか、雲一つ暗過ぎて覗えない空から、

 ポツリ、ポツリと雨が降ってくる。

 始めは小雨だったのに、今は大雨。



 昔にもあった、こんな大雨の日。

 偶然なのかそれとも、何か運命みたいなものがあるのか。

 アスカと離れ離れになった日も大雨だった。





「なんだ、あれ?」



 それは午後11時45分の時だった。

 僕は大雨の中ずっと窓から外を覗っていた。

 心にあった期待も今では希望に。

 お願い、来て。って。

 そう願ってはもう来ないんじゃないか、と思ってしまう。



 そんな折に暗い施設の庭の中に二つの小さな光が。

 その光は僕がいる施設に向かって近づいてくる。



 施設の中に入ってきた光。

 やっと肉眼で捉えることができた。

 光の正体は車だったのだ。



「こんな夜遅くに・・・、

 もしかして、アスカ。」



 希望という名の想いが一気に輝きを増し、大きく膨らんでいく。



 そして、車から降りてきたのは、

 多分・・・3人ぐらい。



 一人は中年の男。

 後の二人は女ということぐらいしか分からなかった。



 だが、僕は直感した。

 あの中にアスカがいるって。

 アスカが僕に会いに来たんだって。
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