死にたい、でも・・・









 彼女の視線はずっと先、

 果てしなく遠いところを見つめているよう。



 彼女の眼前に広がるは何を見せているのだろうか。

 彼女は夕焼けから何を見せられているだろうか。





「ママ、どうしてるの?

 ちゃんと私のこと見てくれてるの?

 私、誰かに必要にされてるの?

 怖いよ、凄く怖い・・・・・・。」



 その場に立ち崩れる彼女。



 何故か、僕は彼女の近くに駆け寄っていた。

 人に接するのは嫌だったけど、

 また、体が僕が考える前に動いてしまった。



「その、惣流。」

「だ、だれ?!

 アンタ、ずっと見てたの?!」



 物凄い形相で睨んでくる。

 さっきの弱弱しい彼女はどこにいったのだろうか。

 学校では取り繕ってると言ってたけど、

 どの彼女が本当の姿なんだろうか。



「ごめん。

 その、誰か来たと思って隠れてたんだ。」

「ふんっ、まぁいいわ。

 アンタ、同じ学校のようね。」



 物凄い気迫が感じられたけど、

 その姿はとても痛々しかった。



 自分の弱弱しいところを隠そうと、

 強がっているように見えたから。



「そうだよ、その碇シンジ。」

「そう、シンジ。

 このこと絶対、誰にも言っちゃ駄目だからね!」

「う、うん。」



 帰るのかな。そう思ってたけど、

 何故か、さっきと同じように夕焼けを見続けている。



「シンジ、アンタ見にきたんでしょ、夕焼け。」

「え、う、うん。」

「ちょっとはハッキリしなさいよ。

 男なんでしょ?」



 やけに鋭いな・・・・・・。



 でも、不思議と嫌な感じはしなかった。

 いつもは他人にとやかく言われるのを、

 凄く嫌っていたはずなのに。



 どうしてだろう・・・・・。



「ねぇ、惣流。」

「アスカでいいわよ。」

「じゃあ、アスカ。

 本当のアスカって、弱いアスカ?

 それとも、今の強いアスカなの?」



 自分でも何を質問してるか分からなかった。

 ただ、彼女、いやアスカの本当姿を知りたかった。



「そんなの、強いほうに決まってるでしょ?

 私は強いの、誰の力も借りなくたって、

 一人で生きていけるんだもん・・・一人で。」

「そっか。

 じゃあ、僕は弱い人間だね。

 とてもじゃないけど一人で生きていけないよ。」



 そう、いつだって僕は人を頼ってきた。

 一人じゃ何もできないことを知っていたから。

 孤独は嫌だって、ずっと思ってきたから。



「シンジ・・・・・・。」

「人ってさ、所詮弱い人間なんだよ。

 集まって孤独の穴を埋めようとする。

 寂しがりな動物に過ぎないんだよ。」



「私って弱いのかな。

 シンジはどう思う?私のこと。」



 そこにいたアスカは、さっきの弱弱しいアスカだった。

 寂しそうな蒼い目をした、一人の人間。



「死にたいって思ったことある?

 僕は思ったことあるよ。

 というより今も死にたいって思ってる。」

「私は無いわ。

 幼い頃、ママが言ってたの。

 "死にたいって嘆きながら生きている人の今日は、

 昨日、生きたいって思ってた人の明日"だって。」







 あれから十年後。

 僕は今という日を大事にしている。

 死にたいと思ってた昔の自分に、

 ガンバレって、心のどこかで応援しながら。



 そして、傍らにいるアスカに支えてもらいながら。









 死にたいなんか思うなよ、俺。

 死ねば確かに楽になれるさ。

 生きたくても、生きれない人もいる。

 綺麗事かもしれないけど、それは事実だ。

 今ある命を無駄にしちゃいけないんだ。



 不公平な世界だけど、生きろ。

 生きて、生きて、生きて。

 昨日、生きたいと願っていた人の明日を、

 自分の都合で、無駄になんか絶対にするな。



   
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